自転車操業の教科情報実践報告
  その2 「ワークシートを使った実習」    

1. まえふり(いいわけ?)
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「せっかくコンピュータ室でやるのだから,できるだけコンピュータを
使った実習中心でいこう!」前回紹介した年間計画はそうした思いから,
組んだものです。

しかし,情報科の目標や,生徒に考えさせたい内容を考えると,「情報
化社会ってどんなもの?」とか「情報モラルは何故必要なの?」など,
いわゆる座学的な内容を扱う必要もあるでしょう。実は一昨年の情報の
時間にこうした内容を「○○とはこういう意味だ。」とか「××はだめ
だ。」という講義形式で実施してみたのですが,これは失敗でした。考
えてもみれば,情報モラルや著作権の話を一方的に聞かされたら,生徒
でなくてもうんざりしてしまうはずです。その反省に立って昨年度実施
してみたのが,今日ご紹介する「ワークシートを使った実習」です。

とはいうものの,やはりそこは「自転車操業」。今振り返ってみても,
反省点だらけです。「こんなん紹介されても何の参考にもならん!」と
しかられそうですが,そこはお許しください。


2. 授業実践 1学期:「情報って何だろう」
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(1)授業のねらい
そもそも「情報」とは何なのか,情報の授業をやるからには,是非生徒
に考えてもらいたい。1年を通して関係することだから,年度のはじめ
に考える機会を与えたい。またできれば情報源(メディア)の信頼性や
特性についても考えさせて,賢く情報を得るために必要な素地を持って
もらいたい。そうした思いから,考えを巡らせて,ワークシートを使っ
た授業を企画・実施してみました。

   準備:ワークシート+授業の内容に沿ったプレゼンテーション

(2)授業の展開・反応
導入の問い掛け
「今朝,テレビで『今日の射手座は運勢が悪い』と言っていた。新聞に
『今日の天気は回復するらしい』ことが書いてあった。電器屋の折込広
告が入っていた,どうやら『新装開店の大セールをする』らしい。こん
なのもすべて情報だよ。」「私たちはこういう情報がたくさんあふれる
情報化社会で生きているんだよ。」

こうした問い掛けから,身のまわりに何気なく存在する「情報」っぽい
ものを見つけ出すことを,まず意識させます。その後は,以下のように
展開しました。

作業1:「自分が得た情報をリストアップする」
導入で紹介したように,自分たちが朝起きてからこれまでに得た情報に
ついてリストアップさせてみます。生徒からは「今日の○○座は運勢が
いいと目覚ましテレビでいってた」といったマスコミから得た情報や,
「今日の食堂の弁当はハンバーグだ」といった身近な情報まで,多様な
ものが出てきます。

ワークシートには,それぞれの情報に対応する形で,「情報源」の欄を
設けています。この欄に記入したことが,後の作業で生きてきます。こ
うした作業のあと,自分がリストに挙げた情報を順番に発表させます。
生徒はそれぞれの発表者が挙げた「情報」を興味深く聞いてくれます。

考察する
作業の後,それを元に考える時間を設けます。まずは以下の2点につい
て考察を巡らせるように言います。

自分の情報・情報源の特徴は何か?
他の人の発表と自分の書いたことを比べてきずいたこと。

上記の問いに対して,私が期待していた回答は「情報源ではTVなどマ
スコミの影響が大きいこと。」や「他人にとって必要な情報でも,自分
には必要のない情報もあること。」などでした。しかし生徒の考察は予
想していたことの他,芸能記事が多いことなどから,「自分のもつ情報
は自分の興味に左右される。」ということへの気づきなども見られ,な
るほどと思わされる場面もあります。こうした良い意味で予想を裏切る
ような気づきを生徒が持ってくれることは,講義式の授業にはない,お
もしろさだと思います。

作業2:「情報源にはどんな特徴があるだろう?」
次の作業では,作業1の結果をもとに,情報源の特徴を考えさせます。

最初に,情報源を分類する作業をやらせてみます。分類のヒントとして,
「1対多か1対1か?」,「信頼性は○△×のうちどれか?」「このメ
ディアのよいところは何か?」といった観点を与え,グループで考えさ
せて発表させます。発表では以下のような意見が出てきました。

【生徒の意見】
(テレビ)
  信頼性は。映像があり情報が早いのがよい点。悪い点は受け取る
  だけの片方向である点,芸能ニュースは信頼性×
(新聞)
  信頼性は。保存がしやすく情報量が多いのがよい点。悪い点は積
  極的に読む必要があるところ。
(クチコミ情報)
  信頼性は×。人によって信頼性がちがう。

さらに考察する
作業2を経て発表された意見なども踏まえてさらに考察をさせます。こ
こでは以下の点にポイントをしぼります。

情報をえるときにどのようなことに気をつければよいか。

前段で考えたことを少し深めることを目的として問うています。「情報
を鵜呑みにしない」,「情報源の信頼性を考えてメディアに接する」と
いったことに気づいてもらうことが目的です。

(3)授業の反省
「考察の内容が少し抽象的かな」というのが反省点。そのため少し誘導
尋問のように授業をすすめてしまったように感じるところもあります。
しかし生徒の大半は,期待通りの考察を書いてくれました。作業につい
てもおもしろそうに参加していたので,この考察を他の単元でどう活か
していくかが今後の課題です。


3. 授業実践 2学期:「情報を活かすために」
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(1)授業のねらい
「情報収集するとき,情報発信するとき,どういったトラブルがあり,
どういったことに気をつければいいか?」2学期はこういったことを
ワークシートで考えさせてみました。

   参考にするWeb
     「ネット社会の歩き方」http://wwww.net-walking.net/
     「コピーライトワールド」 http://www.kidscric.com/

(2)授業の展開
ワークシートに沿って展開します。

作業1(導入):「インターネットでの困った経験」
「インターネットやメールで困った経験をしたことがありますか」
この問い掛けに対して,生徒の半分が手を上げます。何人かに聞いてみ
ると「チェーンメール」「ウイルス」「ネットオークションをめぐるト
ラブル」などいろいろあるようです。

作業2:「情報の収集・発信で注意すること」
「情報の収集・発信の上で,どんな点に気をつければいいのでしょ
う?」という問い掛けをワークシートに示し,以下のような作業をさせ
ます。

利用するのは,Webサイト「ネット社会の歩き方」です。このサイトの
「学習ユニット教材」「個別学習」「高校用」を開き,そこの右半
分(情報検索・発信で注意する点16例)から3つ,左半分(ネットでの
コミュニケーションをめぐる注意点18例)から3つの課題をそれぞれ自
分で選び,ワークシートに「トラブルの実例」「対策」について記入さ
せます。3つと言っているにも関わらず,生徒たちはサイト上にあるほ
とんどのトラブル例を次から次への見てまわっていました。

考察:「チェーンメールはなぜいけないか」
作業を通してさまざまな事例が出てきたところで,特に判断が難しいと
思われる「チェーンメール」について,それがなぜいけないかを考えて
もらう場面を設けました。実際にあった「献血協力の依頼メール」を教
材として具体的に示し,このメールを受け取った人の行動と,その行動
の結果どういうことが起こるかを予想させます。

一通り考えさせたあと「献血協力の舞台となった病院」が,これも実際
にその病院がWeb上に載せたメッセージを紹介しました。そのメッセー
ジには「問い合わせの電話が相次ぎ日常診療に支障が出ている」という
内容が書かれています。こうした事例を通して,善意の内容であっても
チェーンメールに応じることに問題があることを生徒に伝えました。

作業3:「著作権クイズ」
セキュリティや情報モラルの内容に引き続き,著作権についてもワーク
シートを使って考えさせるようにしています。前述したWebサイト「コ
ピーライトワールド」の「コピーライトって何?」のページを使って,
著作権の概要について説明し,クイズを解かせています。著作権クイズ
は教科書に掲載されていますので,これを利用しました。
(日本文教出版「情報A」教科書p.56

(3)授業の反省
冒頭でも書いた通り,ネット社会のマナーの授業は,一昨年講義をして
失敗しています(生徒は「××してはいけない」「××に気をつけろ」
とばかり言われ,イヤになったのか?)。そのため昨年は,このページ
を使って自分でワークシートに記入する形で実習しました。これは好評
でした。しかもこの授業のメリットは,自分でプレゼンを作らなくても,
紹介したWebサイトなどを活用しながら授業ができることです。


4.授業実践 3学期:「私のメディア史を作ろう」
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(1)授業のねらい
「私たちの暮らし・生活は,多くのメディアの影響を受けている。その
ことについて自分の今までの人生をふりかえりながら,考えてみよ
う。」

年度当初に「私たちは情報化社会に生きている」ということを考えさせ
る実習を行っていますが,それをさらに深めるために,年度末にはその
発展として,自分の歴史を振り返る実習を展開してみました。


(2)授業の展開
作業1:「私のメディア史を記入しよう!」
乳幼児期・小学校低学年・高学年・中学校・高校の各時期に分けて,ど
のメディアからどのような影響を受けたかについて,それぞれの時期に
ついて3つ以上書かせます。

最初の10分間は自分一人でだまって,そのあとはグループで情報交換し
ながら,一人では思い出せなかった事柄を補足させました。この作業,
生徒達は結構盛り上がってとりくんでくれました。この作業の後,グ
ループごとに発表させて,各自ワークシートの「他の人の例」の欄に記
入させました。

考察1:「自分の作業や他の人の発表で気づいたことを書きなさい」
ワークシートには自分を中心として,他の人の「メディア体験」が整理
されることになります。これを材料として,気づいたことなどを書かせ
ました。

生徒のコメントとしては「遊び・お気に入りのキャラクターなどテレビ
の影響が大きい」というものが多く,自分たちの生活の中にメディアの
影響があることにまず気付いたようでした。

また「みんな似たようなキャラクターを好きになったり,関連グッズを
集めたりするのもメディアの影響かなぁ」という意見もありました。こ
れは言われればそのとおりで,情報が人の行動を左右しているという大
切な発見だったと思います。


5. ワークシートを使った授業のまとめ
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コンピュータから離れて「情報」というものに焦点をあてた授業を展開
してみたい。そういう思いから,これらの授業を企画しました。

自分では「教え込む」のではなく「気付かせる」授業をめざしたつもり
ですが,読んでいただいてどうお感じになったでしょうか。自分として
は,生徒達も興味を持って取り組んでくれたし,また考察にもねらい通
りのことを書いてくれていたので,とりあえず半分くらいは成功かなと
は思っています。

また先生方のご意見をお聞かせください。

日本文教出版 教科「情報」メールマガジン 第56号(2004.6.18発行)掲載

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