「HUMAN RIGHTS EDUCATION IN ASIAN SCHOOLS
  「平和と人権の学習会の実践」      
1.はじめに

(1)本校の紹介
 聖母被昇天学院中学校高等学校は、フランスのパリに本部を置く聖母被昇天修道会が
日本で設立したカトリックのミッションスクールです。
 その中で中学校高等学校は、各学年2クラスと日本の私学の中では小規模ですが、
「喜び・誠実・隣人愛」をモットーに、アットホームな雰囲気の中、日々の教育実践を
行っています。

(2)特別宗教活動の紹介
 本校にはクラブ活動とは別に。毎週金曜日の放課後に「特別宗教活動」という活動が
あります。ボランティア・ハンドベル・聖歌隊といった活動があり、中学1年から高校
3年までの希望生徒が登録し、活動しています。
 「平和と人権の学習」はその活動の一つで、広く平和と人権に関わる問題について
生徒主体で学習を進めていっています。

 今回は私が顧問を務める、この活動を紹介します。

.「平和と人権の学習」の活動の紹介
(1)活動で大切にしていること

 どのようなテーマを選び、どのような活動をするかは、年度当初に顧問と生徒で話し
合い決めていきます。1年間同じテーマとすることあれば、とくにテーマを設けない
ときもあります。調べるテーマは「広く平和と人権に関するものならいい」としています
ので、様々なテーマが出てきます。

 大切なのは「知りたい」という気持ちと、自分で調べ、そしてそれに対しての知識・
意見を持つことです。「知った」あとはグループで意見交換をして、他の人の意見・
考え方を共有します。そのことで自分の考えが深まり、よりいい意見へと昇華して
ほしいと考えています。

(2)生徒たちの活動

 次に生徒たちの実際の活動の内容について、2002年度に入った生徒を例に紹介
していきます。2002年度に中学3年生の生徒が約10名入り、この生徒たちの多くが
高校3年生で卒業するまで、4年間この活動に参加しました。

@いろいろ知りたい!
 最初生徒たちは、社会のいろいろな出来事について「知りたい」という知的好奇心から
参加したようです。
 「何が知りたい?」と聞くと、社会科の授業で習った「核兵器」、ニュースで見た
「北朝鮮」との答え。「ではそれをテーマにこんなことを調べたら?」、「これはどう
なっているのかな?」とアドバイスするのが顧問の役目。
 生徒はこの助言で、自分なりに知りたいテーマを設定し、それぞれで調べてきました。

 私自身は社会科の教師ですが、授業では一方的な知識伝達型の授業になりがちで、
「授業で習ったことについてもっと知りたい」や「この問題について自分の意見を述べたい」
といったことを十分やって来なかった反省があります。

 この活動では、そういった生徒自身が持つ好奇心をしっかり活かし、そして調べたことに
ついて自分なりの意見を発表し、それに対し他の人が質問、意見を述べる中で、自分の考えを
深めていくことを大切にしました。

A世界の今の出来事も教材!
 発表も一巡した頃、世界では、アメリカによるイラク戦争が始まりそうでした。

 日々のニュース・新聞を使い、「戦争が始まる」瞬間を、生徒たちと共有しました。
そしてインターネット・新聞から賛成・反対の意見を調べ、自分たちなりの考えをもちました。

 戦争が終結?したあとは、戦争中報道されなかった事実がたくさんあることが分かり、
TVや新聞のニュースがすべてを伝えているわけではないことにも気付かされました。
 この出来事には生徒もたいへん関心があったようで、その後のテーマには「アメリカの戦争の
歴史」や「イラク戦争後の犠牲者」などについて調べる者もありました。

 戦争は遠い歴史のお話ではなく、今の世界でも起こっていることや、ミサイルや攻撃の
向こうに「人間がいる」という想像力が大切ということを生徒も感じました。

B自分の目で見て聞いて
 これらの活動の中では、南北問題のビデオを見せたりもしました。その中で「実際に見て
みたい」と、本校のフィリピン姉妹校との短期研修旅行に参加する者も出てきました。

 参加した生徒は発表のテーマとして「フィリピンで見たこと、聞いたこと」というテーマで、
実際に目の当たりにした貧富の差の現状、植民地だった頃の名残、現地の学校での意識の
高さ・・・などについて発表しました。

 この発表をした生徒は、発表のあと「自分でできることは何だろう?」と考えるようになり、
次のテーマに「ユニセフ」の活動を調べるようになりました。世界のこどもの現状や募金の
使われ方など、南北問題という世界の大きな問題を、自分がまずできることに引き寄せて
考えるようになりました。

C発表はする側も、聞く側も勉強になる
 この生徒たちが在籍した4年間、とにかく自分たちでテーマを考えさせ、そして自分たちで
調べ、まとめ、そして発表しました。

 そしてこれらを発表し、それを他のメンバーも聞くことで幅広い知識をつけていったように
思います。もちろん発表する側も、聞いた人からの考えを聞いて、「そんな視点もあるのか」
と自分の考えを深めることにもつながったように思います。

(3)生徒の発表した資料から

@調べたテーマ一覧
 先ほど紹介した生徒たちが、この4年間の活動の中で、自分で選び、調べ、発表した
テーマの一覧です。

2002年(中学3年)

実験用動物の問題   国連こども総会  世界の核兵器保健室登校  北朝鮮の現状

2003年(高校1年)

朝鮮半島の歴史  アンネの日記とユダヤ人虐殺  ベルリンの壁 第二次世界大戦  アフガニスタンの現状  沖縄の戦争

2004年(高校2年)

フィリピンレポート  アメリカの現代史  ドイツの国際平和村 チェチェン問題  地球温暖化  朝鮮戦争

2005年(高校3年)

世界の子どもの現状とユニセフ  パレスチナ問題
歴史教科書問題  部落問題の歴史  少年法って何

資料:レジュメ(発表用原稿)の写真

 当時ニュースで話題になっていた時事問題(北朝鮮やチェチェン問題)や、自分たちが
昔から疑問に思っていて詳しく知りたかった問題(世界の核兵器、第二次世界大戦)も
多かったように思います。

 しかし「アフガニスタンはいまどうなっているの?」という、9.11テロの報復戦争
以降ほとんど報道されなくなったことや、「ドイツ国際平和村」のように教師すらその
とりくみを知らないことを調べて発表した者もありました。

A4年間のレジュメを見直してみて
 この原稿を書くために生徒の発表原稿をすべて見直してみました。

 最初の頃は、辞典でひいてきたように言葉の説明に終始する発表やレジュメが多かった
のですが、少しずつその歴史的背景や現状など調べることに広がりが出てきて、4年目の
レジュメは4〜5枚が当たり前でした。

 そして発表では最後に自分の意見を書かなければいけないルールとしていましたが、
その意見だけで1枚以上書く者も表れ、生徒たちの自分で知る力・調べる力、そして
それらで得た知識をもとに考える力は確実に育っていました。

 何よりも、一つの出来事を見るときに、そのことだけでなく、背景にある歴史や文化
など、今までよりも少し広い視野で見るセンスが育ったように感じています。

3.顧問として思い

 この活動の顧問として感じるのは、次の4点です。

@「今の生徒は社会の出来事への関心が少ない」というのは本当か?
  今まで授業をしている限りでは自分自身もそのように感じていました。
   先ほどの自分で調べたテーマの内容や、活動で見せる生徒の好奇心や意見交換を
 見ていると、「それは違う」「もしかしたら考えさせない授業をしていたのでは?」
 と考えるようになりました。

Aメディアリテラシーを育てたい
  今の世の中で何かを知ろうとするとき、TV・新聞・インターネットなどの
 メディアとの関わりが不可欠です。「マスメディアの報道はすべて正しいのか?」、
 「報道されていないが大切なことはないか?」という、正しい情報を見ぬく目も、
 これからを生きていく生徒にはもってほしいと、活動の中で意識的に育ててきた
 つもりです。

B知識の上に自分の考えを持つことの大切さ
 「しっかりした自分の意見をもてる大人になってほしい」というのが、この活動の
 目標と私は思います。そのためには、「しっかり知識を持ち、自分で調べる力を持つ。
 そして他人の意見をしっかり聞き、その上で自分の意見を持つ」というステップが
 大切と考えます。

「平和と人権の学習」の活動を通じ、このように「考える大人」を少しでも多く、
 社会へ送り出したいと考えています。

Cハートが大切
  知識や考えを何に使うか?が大切。自分のことばかりを考えず、他の国や社会全体や
 周りを見渡せるような人に育ってほしい。それができれば平和や人権を守ることができる。

 そんな思いを持っています。

 小さな学校での小さな実践ですが、視野は大きく世界を見つめています。

「Think Globally Act Locally」

こんな精神を大切に、これからも実践を重ねていきたいと思います。

「HUMAN RIGHTS EDUCATION IN ASIAN SCHOOLS No.10」(2007.10)掲載原稿

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